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がんの漢方治療

がんの漢方治療について

よく、がんと診断されたが手術や化学療法がいやだから、漢方で治せないかと来る人がいます。漢方で大きながんを消滅させることはできません。確かに、漢方でがんが消えたという話はよく聞きます。しかし、そのようにうまく行くのは、宝くじで1億円に当たるようなものです。宝くじを買って当たる人は確かに居ますが、宝くじを買った人すべてが当たるわけではありません。


朝日新聞の平成20年2月26日版に、「女優殺した中医学」医療長寿(5)という記事がありました。
中医学とは中国漢方のことです。

内容は、中国のある女優が、右胸が痛み体がだるくなったが、病院での検査を拒み、漢方薬を飲んでいた。その後痛みに耐えられなくなり、検査を受けたところ、末期の乳がんと診断された。その後も漢方を信じ西洋治療を拒み1年後に亡くなった。

  1. 父親は早く化学療法を受けていれば助かったのにと悔やみ、
  2. 1人の学者が、中医学は神懸り的迷信と断じ、
  3. 漢方で○○が治るという広告を放置すると同じような事件が生まれると言い、
  4. 別の学者は、無批判に漢方薬を信じ、

手術や化学療法を拒否したため死期を早めたと指摘した。

それから政府をまきこみ大論争が起こったというのです。


先ず、誤解を正します。

  1. 西洋治療をすれば助かったということはありません、いずれ死亡します。

    症状からIV期あるいは末期がんだったと思われます。この場合、標準治療を行って、日本での成績は5年生存率が40%、10年生存率は20%ですから平均生存期間は4年くらいです。確かに平均生存年数は3年ほど永いので、先ず西洋治療を行うべきだったでしょう。

    タイトルのつけ方も悪意に満ちています。患者を殺した原因はがんであって中医学ではありません。中医学が効かなかったか効果が不十分だっただけです。
    末期がんですと半年もたないといわれます。漢方薬を飲まなかったらもっと早く死んでいたかもしれません。
    また中医学という一般にはなじみの無い用語を使っています。中医学とは戦後中国が漢方の色々な流派をまとめて教科書と学校をつくり教育制度に組み入れた学問です。
    現在中国では、医者は病院勤務が普通で、中医学校卒業生が開業しているとは思われません。中医師にかかったと書いてなく、ただ漢方薬を飲んでいたとあるので薬局で薬だけ買っていたのかもしれません。(私は、中医学を学びました。日本には江戸時代から独自に発達した漢方、日本漢方がありますので、これと区別が必要な時、中医学という言葉を使います。それ以外は漢方と呼びます。)

  2. 中医学は科学でないと言う人は、科学は顕微鏡や試験管で証明できるものという誤解があるようです。
    精神科の分野である、フロイトの精神分析やユングの分析心理学は顕微鏡や試験管で証明できませんが、科学と言われています。科学の最も重要な条件は、「誰でも、その理論に従って追試(前に行った人と同じ試み)をすれば、同じ結果が得られる(必ずしも100%でなくてよい)」ということです。漢方はまさにその通りで、ただ根本理論が陰陽五行説なので受け入れがたいのでしょう。
    しかし、古代の陰陽五行説も最近は、カオス理論、フラクタル理論で理解できニューサイエンスに通じるといわれ、決して神懸り的迷信ではありません。
  3. 4. は正にその通りです。

    この記事から得られる教訓は、西洋医学の守備範囲、得意とするところ、漢方の守備範囲、得意とするところを良く知って病院と医者を選ぶべきということです。
    中国の中医薬大学病院では、中医師も西洋医学を勉強し、まず西洋医学で治療すべき患者は、西洋医に送ります。何でも中医学で治療するということはありません。

    今回の悲劇は、漢方で何でも治ると信じ、まっとうな中医師にかからなかったことです。がんは××で治るなどの広告に簡単にだまされてはいけません。

    がんの場合、最初の治療は、西洋医学的治療、手術、放射線、化学療法等で、がんを消すか小さくさせます。それから漢方治療を併用します。漢方でもがんが小さいほうが治療効果が良いのです。がんの4期(がんが大きい、また隣接臓器に浸潤している、転移があるなどの段階)や末期がんには漢方の力はなかなかおよびません。

がん治療における漢方の出番は、

  1. 化学療法や放射線治療の副作用を軽くする、あるいは白血球や血小板の数を増やし、化学療法や放射線治療を続行完了させる。これには、がん治療を行っている西洋医の漢方にたいする理解が必要です。
  2. がん治療中および治療後の食欲不振、貧血、体力消耗に対し、食欲を回復させ、元気をつけます。
  3. がんによる痛みの軽減。がんによる激しい痛みに対する治療は、西洋医学のほうがすぐれているでしょう。針灸は強い痛みを除くことができますが、漢方薬では軽度、中等度の痛みが対象になります。ただし、西洋医が処方する鎮痛剤には食欲不振や胃潰瘍の副作用を生じることがあります。しかし漢方薬には副作用はまずありません。漢方の塗り薬というのもあります。今後の研究課題です。
  4. 初期治療が終わった後の維持療法、すなわち転移を防ぎ、がんがほぼ無くなっていれば再発を防止し、がんが残っていれば増大を防ぐことです。これが漢方治療の一番大事な役割です。

日本でがん患者に最も多く使われている漢方薬は、補益剤といわれる十全大補湯、補中益気湯、人参養栄湯などのエキス剤です。これらの薬を西洋医学による初期治療を終えたがん患者に投与し、これが患者さんを元気にし、免役能を高め、転移を防ぐ効果があるというEBMと言えそうな報告があります。これらのエキス剤には直接がんをたたく抗がん作用のある薬は入っていません。

中医学では、患者を元気にする薬は同時にがん細胞も元気にする危険性があると考えます。十全大補湯は免疫細胞の働きを高めるといいます。免疫細胞だけに働けばよいでしょうが、その保障はありません。ある種のがん細胞に働きかけ、がん細胞も元気になるかもしれません。実際、十全大補湯を使ったらかえって、がんが大きくなったという話を聞きます。こういう症例は報告しませんので、本当に大きくなったのか、ただ単に効かなかっただけなのか判断できません。


そういうわけで漢方薬でがんを治療する場合は、免疫能を高めるだけでなく、直接がんをたたく抗がん作用のある生薬も使うべきだと思います。しかし、日本で抗がん作用のある漢方薬の効果を厳密な方法で調べた例はありません。まず抗がん作用のある漢方薬を処方する漢方医は圧倒的に少なく、漢方薬局では処方できません。しかも一施設で治療する患者さんの全体数が少なく、肺がんなどのがん別にするともっと少なくなります。さらに漢方抗がん薬は1種類だけでなく複数処方するのが通例です。作用の異なった薬を何種類か組み合わせたほうが、1種類より効果があることを期待しています。相加効果だけでなく相乗効果を考えています。

そうすると組み合わせ方によりさらにグループ分けが細かくなります。薬ががんに到達するよう、漢方で言う「気」、「血」や「津液(水)」の流れを良くする薬や、薬の帰経(どの系絡に入るか)を考慮して薬ががんに到達しやすくするよう工夫します。また薬は一人一人、病状に合わせ異なります。食欲不振、出血のある方にはその対策の薬を入れます。そういうわけで、薬の組み合わせが沢山あり、非常に研究計画がたてにくいのです。


さらに効果の評価については、がんの縮小効果はあまり期待できず、現状維持を目標とします。現状維持でも最終的に生存期間が延長すれば効果ありと言えますが、結果を出すまで長期間の観察が必要です。がんの大きさが変わらないといっても、漢方治療後、残っている腫瘍を手術で取ったらほとんど死んだ細胞であったという報告もあります。そうなると、生きているがん細胞を写すPETという検査が有用ですが、この検査機械を持っている病院は少なく、費用もかかり(がんの種類により保険がきく場合ときかない場合があります)、実用的でありません。

以上のような理由で、残念ながら日本では現在のところ、抗がん生薬によるがん治療については統計学的批判に耐えられるような報告はありません。


中国の中医雑誌には、ある種の抗がん作用のある生薬を多数のがん患者に投与して良い結果が得られたという報告がたくさんあります。成績が良すぎる論文が多く、EBMかどうか批判的に読まなければなりません。割り引いて考えても、数10%の効果はあるのではないかと感じ、参考にしています。抗がん作用のある生薬の種類は100種以上ありますが、日本で手にはいるものは多くありません。

がんに効くという中国製の薬が宣伝されています。本当に効く薬であれば、中国の多くの病院で使われるはずですが、私が5年前、北京中医薬大学付属病院の腫瘍科で研修していた時には、うわさにも出ませんでした。その後も聞いていません。少しでも効きそうな薬をつくると、前記のような地道な科学的臨牀研究をせずに、内容、製法の一部を秘密にし、やたら権威付け(日本では権威の評価が困難です)と誇大広告をして金儲けをするのは中国ではよくあることです。よほど信用がおける製薬会社でないと危険性が伴います。

日本の広告でも見るような○○でがんが治ったという民間薬や治療方法は、ほとんど免疫の効果あるいは単なるプラセボー効果(何の薬効もない薬でも、この薬は効くと言って飲ませると20%に効果が見られる)と思われます。有効率は低いでしょう。西洋医学の化学療法や放射線治療は、がん細胞を殺すもので有効率は高くなります。がんの漢方治療の単独有効率は、この両治療の間にあると考えています。しかし、西洋医学治療では、がん細胞も死にますが正常な細胞、特に血液成分をつくる細胞も殺されるので、通常は強い副作用をともないます。漢方薬では副作用はまれで、あっても重篤なものはまずありません。


以上述べたようにがんの漢方治療は決して単独で行うものではなく、西洋医学的治療と併用し、西洋医学の治療効果に上乗せして、さらに高い効果をねらうものです。

漢方によるがん治療には、もひとつ新しいがんの発生予防の効果があります。がんは老人病といえます。がんは細胞の分裂異常から発生します。年をとるにつれ、細胞分裂の異常が多くなります。通常は、分裂異常を起こした細胞はその人の免疫機構で殺され、がんになりません。ところが年をとると、この免疫機構の働きも悪くなり、免疫の関門をすり抜ける異常細胞がでてきて、それががんになるのです。一つのがんを早期発見して治癒しても、しばらくして次の新しいがんができます。このようにして、次々とがんができ、現在では3種類ものがんを治療した人がそう珍しくなくなりました。

漢方でがん治療の薬を飲んでいますと、新しいがんの発生も防いでくれます。